永平寺から毎月発行されている時報『傘松(さんしょう)』の中にある一照さんの連載記事、『「只管打坐」雑考』に一口コメントをつけてお届けします。

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次には腿のあたりに触れて、膝から下の部分と大腿部の位置関係を同じようにして微調整した。

「あなたはどちらかと言えば足の小指側で自分を支えている傾向があるみたいね。なにもやらなくてもいいから、足の親指側で支えているとただ思ってみて。...今、どんな感じがしている?」

「足裏で感じる感覚が前とはだいぶ変わりました。なんとなく さっきよりもしっかりと床に接しているような感じがします。からだの中心部のほうで下へ向かう感覚がはっきりしてきました。」

「そう、じゃあ、その感じを感じ続けながら部屋の中を自由に歩いてみて」そう言われて歩いてみると、わずか五分ほどのワーク(働きかけ)なのに、下半身が「目覚めた」 かのようにはっきり感じられて、妙にからだが軽く動くのだった。

自分が「確かに歩いている」という感覚がクリアになっていた。

わたしも坐禅の指導のときには「グラウンディング(接地性)の大切さ」ということをよく話している。

われわれは姿勢を良くしようとして思わず、上半身そのものを直接的に上に向かって伸ばそうとがんばることが多いのだが、それだと逆に筋肉が収縮してしまい(筋肉が働くということはそれが収縮することである)、結果的に上半身は縮んでしまうことになる。

背中を自分の努力で直接に上に伸ばそうと力を入れては(=筋肉を働かせては)いけないのである。

そうではなく、まず、下(地球の中心)に向かってしっかりグラウンドすること、坐禅の場合で言えば、坐蒲の上に乗っている左右の坐骨と座蒲団の上に結跏(あるいは半跏)して置かれている両ひざの外側の計四点が形成している底面を通して自分のからだの重さをしっかりと床に伝えることが大切なのだ。

ここで「しっかりと」という言葉を使ったが、それは「確実に、徹底的に」という意味であって、そうしようとしてこちらが余計な力を入れることではない。

実際はその逆に、なるべく力を抜いて、重力に逆らわず、自分の重さを最大限、床に任せていくことである。

こちらがいかに力んだとしても体重そのものが少しも増えるわけではないから、やるべきことは「力を抜いて、自分の身体の重さを地球に任せ切って、重さを大切にし、ぶら下がり、重さが流れて行く、より良い通り道を作るようにする」(野口三千三)だけだ。

英語にはTaking root to flyという表現がある。(上に向かって)飛ぶために(下に向かって)根づく、という意味である。

メレディスさんは言葉で示唆をしながらわたしの足やすねやももに触れることを通して、そういうことが起こるように、手助けしてくれたのである。

坐禅の実践や指導において、われわれはともすると上半身にばかり注意を向けてその部分だけの外的な形にばかりこだわる傾向があるが、実はそれ以前にそれを乗せている下半身をどのような質で坐布団や坐蒲のうえに据えているかということにもっと気を配る必要がある。

そしてグラウンディングを深める手助けとなるような言葉のかけ方や触れ方を開発していかなければならない。

上半身はしっかりとグラウンドしている下半身に支えられて初めて、深くリラックスすることができ、バランスを取りながら上に向かって伸びていけるのだ。 

次に、メレディスさんがやったのは、アレクサンダー・テクニークの基本中の基本である、頭を頚椎の 一番上(首の最上部)にバランス良く乗せるというレッスンである。

まず、立った状態で。

彼女は「首を楽で自由に...」というような言葉かけをしながら両手でわたしの後頭部やおでこ、背中や胸などに触れて、頭が首の上でバランスが取れているあり方をわたしに伝えようとした。

「たいていの人は頭と首をひとまとめに考えているけど、良い動きのためには別々だと理解した方がいいわ。頭はだいたい耳たぶの高さくらいのところで首の上に乗っかっているの。今まで思っていたところよりだいぶ上にあるでしょ。頭を少し前や後ろにゆっくり動かしてみて。その時、頭と首の関節(環椎後頭関節)だけで動かすように注意して。首ごとまげてないかどうか気をつけてね。あるかないかくらいのほんの小さな動きになるでしょ。」

頭の重心は一番上の椎骨に乗っかっている頭蓋骨の支点よりも前にある。

だからそのままだと、頭は常に前に傾く傾向がある(居眠りしている人がコックリコックリ頭を前に傾けているのはそのせいだ)。頭自身の重さによって前に傾こうとする動きに対してバランスを取るためには頭の後ろで下に引っ張る必要がある。

後頭部の奥深いところにあって、そのために働いているのが 後頭下筋と言われている深層筋群である。

つまり、頭は首の骨の一番上(アレクサンダー・テクニーク の人たちはしばしばそこを「トップジョイント」と呼んでいる)で、そこを支点として頭の重さと後頭下筋の引っ張りがバランスを取り合って、あたかもヤジロベーのようにゆらゆらと乗っかっているのである。

アレクサンダー・テクニークでは動きの中でこの微妙なバランスを確保することが非常に大切なこととされている。

頭が後頭下筋の繊細な動きによってうまくバランスを取っていると、首と背中の筋肉が長くなり、胴体全体が緩む。

さらには肋骨が自由になって呼吸のメカニズムが活性化されていく。

道元禅師が『永平清規 弁道法』のなかで坐禅の姿勢に関して「頂(ちょう ねい)脊骨相い拄(ささ)えて端直にし」とか「項(うなじ)をもって背に差(たが)うことなかれ」 と強調して書いてあるのはこういう事実が背景になっているのである。

正身端坐するためにはその条件をどうしても満たさなければならないのだが、われわれは繊細な後頭下筋の上層にあるより強力な表層筋肉群を収縮させて頭を余計に後ろと下に引っ張り込む傾向がある。

だからその悪い癖が発動しないようにそれを抑制する必要があるのだ。 

 

『傘松』、『「只管打坐」雑考』より一部抜粋