新シリーズ「仏教とわたし」の投稿です。2017年3月までに配信していた旧メールマガジン「藤田一照『仏道探究ラボ』」のコンテンツ「仏教とわたし」を、新たに形を変えて一ヶ月に一度お届けしていきます。

「仏教とわたし」とは、様々な分野で活動中のゲストをお迎えし、仏教との関係性や、仏教に対する考え、思い等をお伺いした記事です。今回磨塼寺では、以前配信した記事に新たに藤田一照が一口コメントをつけて配信します。

以前読んだ方も、今回から読まれる方も、皆さん新たにお楽しみください。読まれた方は、コメントにてぜひ感想を聞かせてください。

第4回目は、株式会社フィールビート代表取締、松浦貴昌さんです。

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松浦貴昌さん株式会社フィールビート代表取締


私は、仏教で人生が変わった一人だと思います。そのきっかけは、私が26歳の時に出会った一人の僧侶とのご縁にあります。それまでの私は、というと、とくに「仏教」として何か学んだ覚えのない人間でした。実家の菩提寺は「禅宗(曹洞宗)」なのですが、小さい頃から親から言葉として「ぜんしゅう」と聞かされていたので、勝手に頭の中で漢字変換して「うちは全宗なんだ」と、割と大きくなるまで思っていたくらいです。

そんな私ですが、幼い頃から心や感情は、ジェットコースターのように上下に揺れまくる人生でした。小学校では、仲の良い友達ができにくく、いろいろなグループを転々として、常に孤独感を持っていました。おそらく今でいうADHD(発達障害)の要素が強かったと思います。中学校にあがると、酷いいじめが始まって不登校ぎみになり、一瞬ですが自殺を考えるところまで追い詰められます。その反動もあったのか、高校ではバンド(ベース)に目覚め、自分を表現するようになります。音楽のジャンルは、ロックやパンク。髪の色はカラフルになり、顔にはピアスの穴が増えていきました。以降、バンドは26歳まで続けることになります。バンドマン時代には、アルバイトで深夜の水商売も経験し、人間の強烈な欲望や嫉妬なども間近で観ることができました。また、その頃に大きな喪失体験もすることになります。それは、お世話になった音楽事務所のお姉さんが急性アルコール中毒で、自分の目の前で亡くなったことです。その後、親しくしていたバンドの後輩も突然亡くなり、死とは、生とは、と考え続けるきっかけとなりました。

バンドで名古屋から上京した私に、突然、小さな会社をやっていた父親から「倒産の危機で実家が競売にかけられる」という連絡があり、悩んだ末にバンドを脱退することになります。バンドを26歳で脱退して、ビジネスの世界に入った私に、運命的な出会いが訪れます。それが、ミャンマーで得度した日本人僧侶の「セアロ」との出会いでした。セアロとは愛称で、ミャンマー名は「ガユーナ・サンディマ」です。日本人なのですが、日本名は知りません。出会ったきっかけは、このセアロの説法(講話会)に、その当時、働いていたビジネススクールの上司に誘われて行った時のことです。第一印象は、大阪弁を話す陽気なお爺さんで、「なんて、面白おかしく真理を話す人なんだろう」と衝撃を受けたのを覚えています。そして、その時、お話に笑いながらも、自分がこれまでに持ち続けた心の苦しみや葛藤が軽くなっていったのを感じました。この体験から、「自分の心の苦しみを楽にするには、仏教にヒントがある!」と気づいた私は、セアロと共にカンボジアなどの発展途上国の支援に行ったり、日本の講話会にスタッフとして参加するようになります。また、「瞑想」も知り、自分の内側を見つめるようになりました。

その後の私は、このセアロを通して仏教を学び、瞑想をしながら自分の内側に気づくことにより苦しみや葛藤から離れていき、人生をより良くしていく大きな学びを得ていきます。その中の大きな気づきの一つを共有します。ただ私の仮説でもあります。それは、「自分に起こった出来事や現象は、自分の内側(自分自身)が創り出している」ということです。もう少し言うと、自分の意識や心も含めた内側(内的な自分自身)が、外側の現実世界を創り出している、ということ。つまり、外側の現象・事象にだけ原因を探していては、根本問題は解決されないことを意味しています。この学びを日々の生活で考えるとどうなるか、書いていきます。

例えば、仕事のトラブルで部下がミスをし、そのせいで、自分がクライアントの謝罪をしなくてはいけなくなったケースがあったとします。学びを得る前の私なら、「なんでこんなミスをするんだ!」と部下を責めてしまうでしょう。それが、今ではこう考えます。「部下がミスをするということは、自分にもその原因になる種や根っこがあるからだ」と考え、自分の内側が発端となって表れ、影響したところを探します。例えば、過去に自分の上長に怒られた経験から、再び怒られるのを避けたいがために部下に強いプレッシャーをかけてしまったかもしれません。また、その上長からの怒りは、小さな頃に親から怒られていた記憶とも一致するかもしれません。そういったことを考えると、一つのミスも、部下だけでなく自分の内側が影響して起こってしまったことであり、過度に反応してしまっていることに気がつきます。人は自分の心や源泉に気がつくと落ち着くものです。すると部下には「やってしまったものはしょうがないから、ここからリカバリーして学びを得ていこう」と前向きに働きかけることができます。また、その後は、その自分の内側を発端とした出来事やミスなどが起こらなくなっていきます。

もう少し蛇足的にみていくと、前述の部下を責めている言葉は「不安や怖れ」の感情から来ているかもしれません。「ミスをしたら、自分の評価に傷がつく」だとか、「余分な仕事や謝罪という面倒な作業で時間が奪われる」といった感じです。それを「自分の内側が影響して起こったことだ」という捉え方にしていくことで、外側の全ての出来事は、「自分が学び成長するためのレッスンとして起こっている」という捉え方にしていくことができます。そうすると次第に心の器が広がっていき、「感謝」や「喜び」を源泉とした言葉や行動が表面にも現われてきます。

この、どういった自分の内側(心)から、言葉や行動を選択していくのか、というところが現実世界をありたいように変化させ、現わしていくポイントだと思うのです。ただ、自分の内側が外側に影響するという法則は、他者についても同じことがいえます。つまり、お互いの内側が影響しあって、出来事は引き起こされている、ということです。自分だけが原因というわけでもないので、自分を一方的に責める必要もないと思っています。

そう理解すると、例え、自分が責められ、怒られたとしても、メタで俯瞰した目線から出来事を捉えながら、「自分のどういう要素(内側)に、この人は反応しているのだろう?」と客観的に落ち着いて出来事を見ることができます。

ここでのポイントは、例えば、普通に考えると自分に落ち度があって責められていると思うことでも、実際にはお互いに心が反応する要素を持ち合っているからこそ起こっている、と考えることです。そう捉えていけば、不安や怖れに支配されることが少なくなっていき、自然体で生きられるようになっていくと思います。

私は、世の中で起こっている課題や悩みのほとんどが「人間関係における心の問題」だと思っています。つまり、「人間関係における心の問題」を解消する術を知っていれば、人生の悩みのほとんどが軽くなることを意味します。そのヒントや解決策が私にとっては、「仏教」だったと思っています。今は、自分のこの学びの「恩送り」として次世代や後輩と共有するために、NPOなどで教育の活動をやっています。一人ひとりが、不安や怖れを手放し、喜びや感謝を原動力にした世界や社会を創りたく、これからもワクワクしながら精進していくつもりでいます。感謝。

 

《藤田一照 一口コメント》

僕は松浦さんとはまだ直接にお会いしていませんが、数年前に忍野での合宿の最中に参加していた方たちと一緒に、Skypeを通して、ライブでお話しする機会がありました。その時は、時間が限られていたので、かれのやっている「カルマキッチン」のことについていくつか質問させていただくだけでした。そのやりとりの中で、「もし、そういうやり方を悪用する人が増えて、経済的にやって行けなくなるということになったらどうされますか?」という質問をしたら、「その時はその時で、という気持ちでやっていますから、何が何でもやりとおすというようなことはしないと思います。」と即答されたのが印象的でした。「僕らの世代にはなかなかいない感性と発想を持った人だなあ」とすごく頼もしく、嬉しく思ったことを思い出します。どういう生き方をして、こういう人柄になったのか、とても興味を持ちました。

このエッセイを読んで、かれが「仏教で人生が変わった一人」だということを初めて知りました。そして、仏教の師のことや瞑想を通して洞察したことを率直にわれわれにシェアしてくれたことに感謝しました。特に、「自分に起こった出来事や現象は、自分の内側(自分自身)が創り出している」という仏教の大事なポイントについて、具体例を挙げて分かりやすく書いてくれました。なるほど、こういう仏教的な考えや感じ方が、今彼のやっていることの背景にあったのかということを、素直に納得できました。近い将来、是非お会いしてもっとお話を伺いたい人です。仏教に触発された若い世代が、思いもよらぬ発想とバイタリティで、次の時代を切り開いていくのを目撃するのは、何よりの喜びです。

 

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松浦 貴昌(まつうら たかまさ)...株式会社フィールビート 代表取締役・NPO法人ブラストビート 創業者、理事・ギフト経済ラボ 共同創業者・オトナノセナカ 理事・明星大学 教育学部で小・中高(社会科)の教員免許を取得中。16歳~26歳までバンドマン(経験職種は30以上)。その後「大前研一のアタッカーズ・ビジネススクール」で勉強し、2006年に0から1を創るマーケティング会社「株式会社フィールビート」を立ち上げる。また、その傍らでカンボジアやフィリピンなどでNGO・国際協力活動などもする。2009年からは中学・高校・大学生に生きる力を届ける団体「NPO法人ブラストビート」の代表理事として、キャリア教育や音楽を使った教育プログラムを立ち上げる。2012年から、優しさや恩送りが循環する社会をつくる活動「ギフト経済ラボ」を仲間と立ち上げ、「あなたの食事代は前に来た方が支払ってくれています」というコンセプトのレストラン「カルマキッチン」などを運営。その他にもオトナノセナカ理事などNPOやソーシャルな活動に数多く関わっている。

・個人ブログ「松の盆栽」http://matsuura.hateblo.jp/